建築事例に「荻窪の住宅」を追加しました

建築事例に「荻窪の住宅」を追加しました。

荻窪の住宅は2022年の年末に竣工した私がLEVEL Architectsに在籍していて最後に担当した物件になります。

最後の担当物件でもありながら、初めてのRC造(鉄筋コンクリート造)の建物ということや、
初めて本格的な茶室を作った物件でもありましたので、
私のLEVEL事務所での集大成でもあり、新たな経験を積むチャンスを頂いた物件でもありました。

お施主さんは50代と60代のご夫婦で、私よりよっぽど多くの人生経験と知見をお持ちのお施主さんでした。
ただそんな年齢差がありながらもいつも誠実で謙虚に接してくださるお施主さんに私の方が学ばせて頂くことも多々ありました。

そんな荻窪の住宅ですが、何と言ってもこの住宅で難しく設計の中で多くの時間を割いたのがこの茶室です。
今日はこの茶室について少し話をしたいと思います。


私はこの住宅を担当するまでお茶の経験がほとんどなかったですし、茶室建築についても知識が乏しい状態でした。
LEVEL事務所としても過去にここまで本格的な茶室は経験がなかったため、
一から茶室という建築を勉強するところから始まりました。

茶室というのは建築という世界の中でも最も奥が深いという認識はなんとなく持っていましたが、
勉強し始めてその奥深さを理解することになりました。

茶室という建築は単に形式的に畳を敷いて、床の間を作って、壁には左官、障子をつければ完成、という訳ではありません。
茶室という建築的な部分に限らずですが、茶会で目にするものはほぼ全てに意味が持たされています。

お茶を飲むための茶碗から、抹茶を点てる為の茶筅(ちゃせん)、抹茶を掬うための茶杓(ちゃしゃく)なども、
それがどこで取れたどういう材料で、それを誰がどういう意図で作ったものなのか、
またそれをどういう理由でその茶会に使用しているのかまでお客様をもてなすために全て亭主が考えて用意します。

それら道具から建築に至るまで全てに意味が込められていて、
例えば床の間の床柱(とこばしら)や床框(とこがまち)と呼ばれる材にはどこで採れたなんの材料を使うのか、
壁に塗る左官材もどこで採れた砂を用いてどのような仕上がり具合にするのか、
着物が汚れないように腰より下の高さの壁に貼る腰貼りと呼ばれる紙も、
どこで採れたなんの原材料で作った和紙なのか、などなど見える素材の全てを一つ一つ厳選し、
その茶室を亭主はどういう空間にしたいのか考えていきます。
そして茶会ではその意図や意匠でお客様をもてなすという、究極のもてなし建築なのです。


それは目に見える部分だけにとどまらず、例えば床の間は元々神様がいる場所として最も位の高い場所であるため、
ほとんど目に見えない床の間の天井には最も良い材料を使ったりもします。

また茶室の中だけにとどまらず、茶庭と呼ばれる庭にも同じことが言えます。
茶庭には茶室が整うまでの時間を待つための腰掛けと呼ばれるスペースがあり、
茶室に入る前には神社の手水と同じ要領で、蹲(つくばい)という手を清める場所もあります。

茶庭に植える植物や樹木も四季を楽しめる為のものを植えたり、
茶会の際に茶花として床の間に飾るための椿などを植えたりします。
「花は野にあるように」という千利休の言葉にあるようにあまり華美なものは使わず、
自然の風景そのままを飾るという考えがあります。

とにかくこの4畳半という小さな世界に、とんでもなく多くの意味が込められた空間が出来上がるのです。
また、設計だけでなく茶室は施工も非常に難しく手間が掛かり、熟練した大工さんの腕が必要になります。
本当はこのこだわりポイントや細かい施工の工夫も全てお伝えしたいぐらいなのですが、
あまりにも長くなってしまいそうなのでここらへんにしておきます。
(このあたりは当時私がLEVEL事務所で書いたブログを読んでいただければと思います)

茶室を設計するにあたり建築的な部分からお茶の作法や茶会の一連の流れなども勉強するとても良い機会になりました。
非常に奥深く面白いお茶の世界に触れ、またいつか機会があれば是非茶室を作ってみたいと思いました。

茶室のことだけで話が長くなってしまいましたが、
2階のLDKの空間も広いテラスが面したとても気持ちの良い空間となっています。
キッチンなどもかなりこだわって細かい部分まで打合せを重ねて作ったキッチンです。
作品ページでも紹介しておりますので、是非ご覧いただけますと幸いです。